鎖麟嚢 - さりんのう -
あらすじ
富豪の娘・薛湘霊(せつしょうれい)は聡明で善良だが、世間知らずのまま婚礼の日を迎える。花嫁行列が進むうち雨が降り出し、雨宿りの東屋に来合わせたのは貧家の花嫁だった。貧しさゆえの泣き声に、はじめて世の中を知った湘霊は、同情して財宝のつまった鎖麟嚢を贈る。雨はやみ、互いに名も知らぬままそれぞれの道に歩き出す。数年後、湘霊は大洪水のため流されて、ひとり見知らぬ土地にたどり着く。使用人として雇われた屋敷で待っていたのは、思いもよらぬ運命だった…。
繊細な歌と舞が織りなす
人情劇
1937年に劇作家の翁偶虹(おうぐうこう)が作劇した比較的新しい演目で、梅蘭芳(メイ・ランファン)と妍(けん)を競った名女形・程硯秋(ていけんしゅう)の代表作。大輪の牡丹花のごとくおっとりとあでやかな梅蘭芳の芸風に対し、程硯秋の持ち味は知的で可憐な繊細さ。風に吹かれてゆらぐ灯火のような歌の響きを特徴とし、全編にちりばめられた歌の数々は、内容や感情に合わせて次々と変化をみせる見事な構成で、長い歌も決して観客を飽きさせない。特に春秋亭の雨宿りの場の薛湘霊の歌は、オペラのアリアのようによく歌われる屈指の名曲である。後半の長い袖を使った舞の動作も見所で、驚き動揺する胸の内が表現される。いつの世にあっても、戦乱、災害、事故など、無常の中で生きる我々人間にとって、人と人の「情」というものがいかに大切であるかを痛感させられる感動作である。
金銭豹 - きんせんひょう -
あらすじ
天竺への旅の途中、三蔵法師一行が一夜の宿を求めて訪れた鄧洪(とうこう)の家には、ただならぬ気配が漂っていた。紅梅山に棲む妖怪・金銭豹が、鄧洪の娘の美貌を見初め、まもなく嫁取りに来るという。強敵・金銭豹を相手に奇策で挑む孫悟空。勝敗はいかに?
西遊記から生まれた
アクション劇
金銭豹とは、そのまだら模様が金銭のように見えるヒョウ(レオパード)のことである。京劇の立ち回り劇では孫悟空物は定番だが、この芝居の主役は何と孫悟空ではなく悪役の金銭豹で、またストーリーは『西遊記』の原作にはないが、舞台で演じる立ち回りの面白さから生まれた作品、という点で独特である。見所は何といっても、悪(わる)カッコイイ金銭豹の魅力的な武芸の数々。刺股(さすまた)という武器を扱う見事な技、高所からの派手な宙返りなど、どれも難度が高い。対する孫悟空も、前半は猪八戒とのコミカルな演技もあり、後半はピタリと呼吸を合わせた立ち回りをせねばならず、ともに実力のある役者でなくては演じられない。楽しくて難しい、充実した演目である。
太真外伝 - たいしんがいでん -
友誼薫る5度目の民音公演に梅派の代表作が花を添える!
「天に在りては願わくは比翼(ひよく)の鳥となり、地に在りては願わくは連理の枝とならん」 ー 盛唐という強大な王朝に花開いた玄宗と楊貴妃の世紀のラブロマンスは、白楽天の漢詩『長恨歌(ちょうごんか)』によって広く流布し、様々な作品に描かれ、語り継がれてきた。京劇では梅蘭芳が1925、26年にシリーズ四作の『太真外伝』を発表。当時32歳、人気絶頂の梅蘭芳の艶やかで気品あふれる楊貴妃、心血を注いだ歌や舞踊、豪華な衣装や舞台装置、斬新な照明などで人気を博し、今日に至るまで梅派の代表演目としてよく上演されている。今回の特別上演では、全編中最大の見所・永遠の愛を誓う七夕の夜の場をセレクト。絢爛たる美と深く濃やかな愛の世界が舞台に広がる。