目覚ましい勢いで変化を続けている巨大国家、中国。中でも「中国東北部の香港」と呼ばれる遼寧は、中国では貴重な不凍港、6つの空港、そして中国屈指の鉄道網を持ち、中国有数の産業地区として発展している。中でも、外資系企業を誘致するホットプロジェクトが盛んで、日本や韓国、ヨーロッパからの企業の進出が著しく、大手メーカーや金融機関、またIT産業のデータセンターやコールセンターなど、外資系企業が集まる国際都市として発達している。なお、遼寧省は環境問題にも早くから取り組んでいて、安全に生活できる街、緑豊かな街づくりのため様々なプロジェクトを実施。その結果国連の「世界環境ベスト500」の審査で、2001年には世界唯一の「入選都市」に認定されるなど、成果を上げている。
 
 近年は観光にも力が入れられていて、(1)瀋陽故宮、(2)福陵、(3)昭陵、(4)新賓永陵、(5)本渓桓仁五女山高句麗山城、(6)ヒョウタン九門口長城と、6つもある世界遺産や、世界最大の玉製佛像「鞍山玉佛」や、世界最長の鐘乳洞「本渓鐘乳」といった、歴史を感じさせる観光資源だけでなく、「ビール祭り」や「オートショー」「ファッションショー」、そして「氷雪観光祭」など、多くの国際イベントが催され、国内外から多くの観光客を受け入れていて、今や農業・工業と並び、一大産業として重視されている。ヨーロッパの街並みを彷彿とさせる、ゆったりした道路や建物が配され、外国人も多く行き交う、国際色あふれる美しい街、避暑地として栄えている海水浴場、緑豊かな山々など、清王朝発祥の地としての風格が圧巻だ。
 
 なお、各産業の発達に伴い、芸術にも力が入れられているが、海外との交流が盛んなためか、外国の文化も積極的に取り入れ、消化しているのが特徴的だ。中国伝統を、若い人や観光客にも親しんでもらおうというサービス精神が豊かで、最新の劇場機構の導入や、西洋音楽と民族音楽のコラボレーション、積極的なショーアップなど、大胆なアレンジを行っている。このエンターテインメントに徹した「進化し続ける伝統芸能」でアメリカやカナダ、日本などでも活躍するアーティストがショーやサーカスで人気を呼んでいるが、「外国のショーに取り込まれた中国の伝統芸能」ではなく「中国の伝統芸能に外国のショーのテクニックを導入」して、センセーションを呼んだのが遼寧歌舞団のレビュー。観る人によってはモダンな印象を持ち、また別の人にとってはエキゾティックな印象を持つ、現在進行形の伝統芸能。未来に向けて新しい伝統を加えていくライブ感が魅力だ。
 
 

 
 1956年に創立された遼寧歌舞団は、舞踊隊、民族楽団、声楽隊、雑技団などが一体となり、中国伝統音楽や舞踊を現代調にアレンジし、スピーディなレビューを創造。欧米のレビューと異なる、中国ならではの色彩感覚や伝統芸能の導入は大きな反響を呼び、中国国内のみならず、ヨーロッパやアジアの数十カ国を訪問。ワールドワイドな舞台作りの手法と、民族色溢れる作風のコラボレーションが高く評価され、国内外での受賞も数多い。
 
 近年は大型レビューを次々に生み出し、2006年には歌舞団創立50周年記念の大作を発表したり、また、毎年7作品が選ばれる、「国家興行輸出演目」にも選定されるなど、中国を代表する文化団体として、世界各国との友好に一役かっている。
 
 今回の日本公演で上演される「花の楽舞~ジャスミン~」は女性を花にたとえることで、女性の魅力を余すことなく描いたファンタジック・レビュー。遼寧歌舞団の代表作の一つ「女児風流」をさらにバージョンアップさせた、いわば決定版。情熱的に踊るダンサーに交ざり、伝統楽器のミュージシャンたちが舞台狭しとばかりに動き回りながら演奏する、新しいスタイルの舞台作品で、ダンサーとミュージシャン、デザイナーたちが集結し、中国文化の粋を注ぎこんだ、2部構成・全4場からなる大型エンターテインメントだ。中国の歴史や文化をスピーディで変化に富んだレビューに仕立てた、華麗で神秘的な世界が繰り広げられる。
 
 女性の美しさを湛えた第1場は壮大なオーバーチュアで始まり、花の精に扮した女性ダンサーやミュージシャンたちが、色鮮やかな照明に彩られる中、さまざまな花に扮して、一気に夢の世界へと観客をいざなう。細やかな動きが総合され、ダイナミックな表現力となる総合美が圧巻だ。
美しい花々が競い合うように咲き誇る様を、女性の美に重ねた場面は、中国の伝統音楽や舞踊が西洋の音楽やダンスと融合され、エキゾティックで生き生きとした息吹を伝えてくれる。
 
 第2場では働く女性のしなやかな力強さを大自然に息づく草木に扮して表現。コンテンポラリーダンスの小気味よいリズムの中、アクロバティックで躍動感あふれるジャンプや力強いステップ、中国伝統楽器での超絶技巧などの競演となり、キャストの面々も真剣勝負の顔を見せる。現代調にアレンジされた中国伝統音楽や舞踊が圧巻のうねりを生み、フライングが繰り出されるなど派手に盛り上がりを見せる、エネルギーに満ちたパワフルな場面で、観客が息を呑む間に第1部は幕となる。
 休憩を挟んでの第3場は一転して静の世界が登場。シンプルな構成でじっくりとソリストが至芸を披露、青白い照明に照らされた幻想的な舞台で「女性の魂」を厳粛に表現する。哀愁に満ちた調べに乗せ、京劇や剣舞、雑技などの名場面が登場し、しなやかさと力強さ、清楚と妖艶といった対比で深い精神世界を表現。
 
 続くフィナーレの第4場は荘厳たる姿で描かれる「女性讃歌」で、次々に登場する宮廷楽舞で迎える一大フィナーレは祝祭感に満ちていて、何十人ものキャストが次から次へと登場するラストの大スペクタクルでは鳥肌モノの感動を覚えるはずだ。
 
 遼寧歌舞団の魅力は、伝統芸能の高い技術、外国文化を自分たちのものとして消化してしまうアレンジメント能力、そして何よりも、新しい伝統を作り出そうという、創造者としてのエネルギーに満ちている。
 
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